映画「ハリーとトント」!! 猫と老人 | ネオ・ビジョンかわら板

映画「ハリーとトント」!! 猫と老人


ハリーとトンと

74米/製作・監督・脚本=ポール・マザースキー/脚本=ジョシュ・

グリーンフェルド/撮影=マイケル・バトラー/音楽=ビル・コンティ

/出演=アート・カーニー/エレン・バースティン/ダン・ジョージ/

ジェラルディン・フィッツジェラルド/ラリー・ハグマン/フィル・ブ

ランズ/ドリー・ジョナー/ハーバート・バーゴフ/エイヴォン・ロン

グ/メラニー・メイロン/アーサー・ハニカット/サリー・K・マール

/バーバラ・ローズ






愛猫、いまだ帰らず・・・

そんな中、以前同僚が紹介してくれて、これは自分の好きなタイプの映画だと確信していた映画「ハリーとトント」を見る。


アパートを追い出された偏屈な元教師の老人ハリーが、同じく年老いた猫トントとともに、離れ離れの自分の息子・娘の元をたずねながら、バスで、車で、つれづれなる旅に出かける。途中、娼婦やヒッピーコミューンにあこがれる少女、老人ホームにいる初恋の女性など、様々な人と出会い別れながら・・そして時折、自分の人生を振り返り、愛猫に語りかけながら、自由きままな旅を続ける1人と1匹のロードムービーなお話、です。


で、やはり予想通り・・・染みました。



そりゃそうだ。

昨年中古のマイカーを手に入れたとき、まず自分の考えたことは・・愛猫キーと車で旅に出かけること・・・


この映画では、まさにそんな風景がたびたび登場するんですから。



ダッシュボードの上に、相棒・トントがちょこんと寝転ぶ中、ゆっくりと走る青いアメ車。フロントガラス越しに流れいくアメリカの風景・・・



まさに自分が夢見たドライブ。流れる風景を眺めながら、視線を少しずらしたとき、そこに愛猫が、ちょこん、とい居る幸せ・・

その風景を見れただけでも、十分幸せな気分になれる映画でした(猫にはいい迷惑でしょうが・・)。



ただ、この映画は、別に猫と人間の交流を描いたいわゆる「動物映画」、というわけではないです。

ジャンル的にはアメリカンニューシネマ、でしょうか。いや、いうなれば「ポスト・アメリカンニューシネマ」、でしょうね(そんなジャンルないすけど)。


頑固で偏屈な老人と、その家族。まっとうすぎる息子もいれば、ウーマンリブに感化し、結婚と離婚とくりかえす娘がいて、

業界人風で見栄っぱりで借金まみれの息子もいる。孫の一人は、ヨガ本やニューアカ風の本に感化され、しゃべらないという「行」をやっていたりするし、旅の途中で出会った16歳の少女は、ヒッピーコミューンを目指しているし、友人のポーランド人の老人は、資本主義批判を繰り返しているし・・


家族も出会う人々も、あのアメリカンニューシネマな当時の状況を反映させた人たち。

ただこの映画では、そういう人たちを、別に特別なものとしても、ドラマチックにも描きません。



この映画の主役は、あくまで年老いた老人と猫。彼ら若者たちの自由きままな行動を、しかるでもなく、かといって受け入れるでもなく、淡々とやさしいまなざしで、見つめる老人。そして自分の半生を振り返り、「いろいろあったが・・まぁ悪くなかったな・・・」と猫に語りかける老人。それに応えるでもなく、ただ悠然と自分の「死」を受け入れる猫が1匹・・・



つまりこの映画のテーマは・・・老人と、その相棒の老猫を通して、僕らが老いた時、または「死」を目前に控えた時、その「死」というものと、どう関わり、受け入れていくのか・・そんな現代(特に高齢化社会の日本において)にも通じるテーマを、問いかけてくる映画なんでしょう。たぶん、自分の大好きな映画、リンチの「ストレイトストーリー」とも相通じます(決して声高に、でなく淡々と、温かみのある視点でそのシリアスなテーマを描いているのも、共通していますね)。





ところで、本日18日、自分はめでたく?40になりました。人生80年とすれば、もう折り返し地点ですね。

そういう時期に、この映画を見れたのは、ここ最近いいことない自分にとって、幸運な体験だったと思っています(猫シーンも含めて、ね)。


そう。自分は「老い」について、これまでは、それに抗うことばかり考えていました。


偏屈になるな。柔軟であれ。かといってポリシーや情熱は捨てるな。

怒りを忘れるな。涙も流せ。などなど・・結局、すべてにおいて、自分は、今あるこんな自分や現状を否定し、

前に進む若さや青臭さのみを信望する・・・そうしたスタンスに、思いに、自分はとらわれていたんではないかと。

そうした時に、「老いていくこと」は、なかなか簡単には受け入れられない、抵抗していきたい「現象」なわけです・・・

ばかですねー。


んで、ニューシネマが「未来」や「老い」を否定し、先走った「死」を肯定的に捉えてきたことに対する、ある種の回答がこの映画なんでしょうね。ま、簡単にいっちゃえば・・・


「人生、そんな悪いもんじゃないよ」


そういうことを回答したポストアメリカンニューシネマがこの映画なんでしょう。自分なりの解釈ですが。


で「老い」を否定してきた自分が、40になって思うことは・・・ちょっとだけ変わり、それを、どう受け入れるか、について少しづつ考えていくことも、決して悪いことじゃないな、と。



あきらめるのではなく、受容していくこと。



それは、言い換えれば「色即是空」、な感じでしょうか(ラスト、老衰で死んだトントの生まれ変わりに出会うシーンは、泣けますよー)。



そういう思いを感じることが出来たのがこの映画「ハリーとトント」。



猫好きだけではなく、たぶん僕の世代や、さらに2007年、大量に退職なさる方々あたりに、ぜひ見てもらいたい映画かもしれません。


気になった方はぜひ。

隠れた名画ですよ。

PS:

この映画で主演のハリーを演じたアート・カーニーは75年のアカデミー主演男優賞受賞しています。トントも、アカデミー主演猫演賞ものですよ。またエンドロールの出演者の名前の中で、ラスト、一番でっかく「・・AND TONTOと表示されていたのが、かわいらしくてGOODでした!



我が家の猫も、いずれ作品に出演させ・・「AND KEY」と出したいから、早く帰ってきてくれー!!ですよ。ほんとに。